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福岡高等裁判所 昭和55年(う)93号 判決

主文

被告人原田利夫の本件控訴を棄却する。

原判決中、被告人株式会社福田住宅、同福田廣美に関する部分をいずれも破棄する。

被告人株式会社福田住宅、同福田廣美はいずれも無罪。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人原田利夫の弁護人山田正彦、被告人株式会社福田住宅、同福田廣美の弁護人白仁美全が差し出した各控訴趣意書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用し、これに対して次のとおり判断する。

被告人原田利夫の弁護人山田正彦の控訴趣意について

所論は、要するに、原判示第一の宅地販売による宅地建物取引業を営んだものは海老名嘉生であって、被告人原田利夫は、右海老名に雇われ同人のもとで右宅地販売に従事したに過ぎないから、同被告人は無罪であるのに、原判決が、同被告人は湘南丘陵興発株式会社の代表者として同会社の業務に関し右の宅地建物取引業を営んだものであると認定し、宅地建物取引業法一二条一項違反の罪の成立を肯定したのは、事実を誤認し、法律の解釈適用を誤ったものであって、その誤認並びに誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄されるべきである、というのである。

しかし、原判示第一の事実は、原判決の挙示する関係証拠によりこれを認めるに十分であって、記録を精査し、当審における事実取調べの結果に徴しても、原判決の右事実認定に誤りがあるとは認められない。すなわち、右関係証拠によると、

1  被告人原田は、昭和四〇年七月一五日、土地建物売買、土地建物仲介等をその営業の目的とする湘南丘陵興発株式会社(本店所在地、東京都豊島区池袋東一丁目五三番地。昭和四二年一二月一日同区駒込一丁目一三〇番地に移転。)が設立された際、同会社の代表取締役に就任し、現在に及んでいること、

2  右会社は、昭和四〇年九月六日、宅地建物取引業者として東京都知事の免許を受けたが、昭和四三年九月六日ころ、右免許の更新手続きを怠ったため、同免許は失効し、以後、宅地建物取引業者としての免許を受けていないこと、

3  被告人原田は、昭和四九年七月ころ以降、旧知の海老名嘉生(以下、「海老名」という。)の依頼により、同人と協力して、同人が、株式会社駒商(本店所在地東京都)の名義で、不動産業者から購入していた行橋市所在の宅地約一二〇〇坪を分譲販売中、株式会社駒商の名義ではその販売の継続ができなくなったため、海老名と話し合いのうえ、以後は湘南丘陵興発株式会社を右宅地取引きの営業主体とすることとし、同会社は、右宅地の取引き業務を引き継いだこと、そして、同会社は、右宅地の分譲販売により約四〇〇万円の利益をあげたこと、

4  被告人原田は、海老名との申し合わせにより、それ以後も、湘南丘陵興発株式会社の業務として、両名協力のうえ宅地建物の取引きをすることとしたこと、

5  被告人原田は、同年一〇月五日ころ、行橋市において前記宅地販売の残務整理に当っていたところ、当時福岡市に居住していた海老名から、電話で、「諫早市に土地があるから半田秀男(福岡市に居住する不動産取引業者)と連絡をとってその土地をみてきてくれ」との連絡を受けたので、翌一〇月六日ころ、長崎県諫早市に赴き、同市で右半田と会い、翌七日ころ、原判示の青葉台ニュータウン(以下、「青葉台」という。)の土地を見分した結果、分譲販売に適する土地であると判断したこと、それで、同被告人は、右半田の取計らいにより、翌八日ころ、長崎市所在の長崎グランドホテルにおいて、右土地内の土地所有者である吉富祐一郎、同九州地所株式会社の代表取締役田浦敬久、同増田建設工業株式会社の支配人取締役営業部長島田雅行らと会合して同人らと右土地の売買について話し合ったところ、同人らから示された土地の売値が一坪当り四万三〇〇〇円であったため、同人らに対し、(1)売値をもっとさげてもらいたい、(2)銀行ローンをつけると売り易いので地主の方で右ローンをつけるようにしてもらいたいと要望し、同日は結論が出ないまま同人らとの会合を終え、その結果を、右半田を介し、海老名に報告したこと、

6  その後、右土地売買の交渉は、いずれも福岡市に居住する海老名、右吉富、同半田の間で進められた結果、同年一一月一一日に前記長崎グランドホテルで右土地の売買契約がなされることとなったため、海老名から連絡を受けた被告人原田は、同日、右長崎グランドホテルに赴き、同所で海老名、前記吉富、同田浦、同島田、同半田らと会合したうえ、右島田を除くその余の者らとともに同市所在の四海桜に場所を変え、同所において、湘南丘陵興発株式会社の代表者として、同会社が買主となり右吉富から青葉台の土地内にある同人及び佐藤英子の所有地六六九・五坪を代金二五二五万円で買い受ける旨の契約をしたほか、その後、いずれも右会社の代表者として、同月二〇日には青葉台の土地内にある前記増田建設工業株式会社の所有地三八二七平方メートルを代金四三八一万四〇〇〇円で、同じころ、青葉台の土地内にある立花鴻の所有地七五坪を代金二〇〇万円で、昭和五〇年二月五日には、青葉台の土地内にある前記九州地所株式会社の所有地二三四・一二坪を代金九一七万九五〇〇円で、同年三月一〇日には青葉台の土地内にある同会社の所有地八〇坪を代金二六〇万円で、同月二〇日ころには、青葉台の土地内にある稲富静子の所有地八四坪を代金三二五万七〇〇〇円で、同日ころ、青葉台の土地内にある川添静子の所有地約一〇〇・六坪を代金四〇〇万円で、それぞれ湘南丘陵興発株式会社が買主として買い入れる旨の契約をしたこと

7  右土地の購入資金には、前記の行橋市において得た利益金が当てられたほか、本件における青葉台の土地販売により得た利益金が当てられたこと

8  青葉台の土地の分譲販売価格、従業員に支払うべき報酬価額、右販売の売主名義人となる株式会社福田住宅への謝礼額などは、被告人原田と海老名との間で話し合いのうえ決定され、右分譲販売は、その第一回目が昭和四九年一一月一六日から同月一八日まで、第二回目が同月二三日から同月二五日まで、第三回目が同年一二月七日から同月九日まで、第四回目が昭和五〇年三月二一日から同月二四日まで、第五回目が同年四月五日から同月七日までそれぞれ実施され、その間、被告人原田は、湘南丘陵興発株式会社の代表者として、自ら個個の販売業務に当るほか、セールスマンら従業員を指揮監督して右販売業務を統轄するとともに、販売代金の受領、保管、従業員に対する報酬支給その他の経費の支出一切をなしたこと

9  被告人原田が、湘南丘陵興発株式会社の代表取締役として、同会社の業務に関し、建設大臣及び都道府県知事の免許を受けないで宅地の販売をなした、その売買契約年月日、契約場所、売買物件、売買金額、買主等は原判示第一の別紙一覧表のとおりであること

10  青葉台の土地販売による利益は約二〇九一万円にのぼり、うち一千数百万円は被告人原田より海老名に送金され、その余は被告人原田の生活費、交際費等に当てられたこと、海老名に送金された右金員の大半は、昭和五〇年三月設立された株式会社東建(代表取締役原田利夫)の設立資金等にあてられたこと

11  被告人原田と海老名との間には雇傭関係はなく、同被告人は海老名から賃金、給料等を支給されたことも、その支給を同人に要求したこともないこと

が認められるのであって、右認定事実によると、原判示第一の事実を優に肯認することができる。《証拠省略》中、右認定に反する部分は、その余の前記証拠に照らして信用することができない。もっとも、原判決は、被告人の原審公判廷における供述をも証拠として挙示しているのであるが、原判示第一の事実からすると、原判決も、同供述中、前示部分を採用しない趣旨であることが明らかである。

原判決には所論のような事実の誤認はなく、法令適用の誤りもない。論旨は理由がない。

それで、刑訴法三九六条により、被告人原田利夫の本件控訴を棄却することとする。

被告人株式会社福田住宅、同福田廣美の弁護人白仁美全の控訴趣意中、法令適用の誤り、理由不備の主張について

所論は、要するに、被告人株式会社福田住宅(以下、「被告人会社」という。)は、福岡県知事から免許を受けた宅地建物取引業者であるところ、宅地建物取引業法(以下、「宅建業法」という。)一三条は、宅地建物取引業者が、その免許名義を、免許を受けていない他人に貸して宅地建物取引業を営ませることを禁止したものであるから、原判示第二の事実は、宅建業法一三条違反の罪を構成するものではなく、しかも、被告人会社代表者兼被告人福田廣美は、当時湘南丘陵興発株式会社が宅地建物取引業者としての免許を受けているものと信じていたのであるから、被告人会社及び被告人福田廣美はいずれも無罪であるのに、原判決が、右被告人らの判示第二の所為につき宅建業法一三条、七九条三号、八四条を適用して、同被告人らをいずれも有罪としているのは、法令の適用を誤ったか、理由不備の違法を犯したものである、というのである。

ところで、被告人会社及び被告人福田廣美に対する本件公訴事実並びに原判示第二の事実においては、いずれも、宅建業法一三条にいう「他人」には、同法三条一項の免許を受けている宅地建物取引業者も含まれるとされており、当審においても、検察官は、右と同趣旨の主張をしていて、それらは、いずれも、所論と真っ向から対立していることが明らかであるところ、原判決の挙示する右被告人らについての関係証拠によると、被告人会社は、福岡県知事から宅地建物取引業者としての免許を受けて、現に宅地建物取引業を営んでいる会社である(宅建業法二条三号によると、宅地建物取引業者とは、同法三条一項の免許を受けて宅地建物取引業を営む者をいうものであることが明らかである。)こと、被告人会社代表者兼被告人福田廣美は、原判示第二当時、湘南丘陵興発株式会社が宅建業法による宅地建物取引業者としての免許を受けているものと考えていたことが認められる。

そこで、検討するに、宅建業法一三条の名義貸し禁止の規定は、宅地建物取引業者、すなわち、同法三条一項の免許を受けて宅地建物取引業を営む者(同法二条三号)は、その免許名義をもって、なにびとに対してもではなく、同法三条一項の免許を受けていない他人、すなわち、宅地建物取引業者として宅地建物取引業を営んでいない他人に宅地建物取引業を営ませてはならないという趣旨であって、同法三条一項の免許を受け宅地建物取引業者として宅地建物取引業を営んでいる者にまで宅地建物取引業を営ませてはならないという趣旨ではないと解するのが相当である。けだし、宅建業法一三条は、それまでは、同法三条一項の免許を受けていないものが、その免許を受けているものから右免許名義を借りて宅地建物取引業を営んだ場合において、右免許名義を借りた者の処罰はできるが、免許名義を貸した者に対してはいかなる処罰又は処分が可能かについて明らかでなかったことから、これを明確にするため、昭和四六年法律第一一〇号宅建業法の一部を改正する法律により、新たに設けられたものであって、右規定の趣旨は、同法三条一項の免許を受けた者が、その免許名義を他人に使用させて不公正な宅地建物取引をさせることを防止することにあると解されるところ、同法は、宅地建物取引業を営む者について、その業務の適正な運営と宅地及び建物の取引の公正とを確保し、購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図るため免許制度を採用し(同法一条、三条)、宅地建物取引業者(同法二条三号)となるための資格を制限して(同法五条)、宅地建物取引の公正を確保し、右免許を受けていない者の宅地建物取引業を営む行為を一切禁止する(同法一二条一項)反面、右免許を受けている者の宅地建物取引業を営む行為については、それが同法又は他の法規違反に及ばないかぎり処罰の対象としたり、行政処分の対象としたりすることはないのであって、従って、同法三条一項の免許を受けている宅地建物取引業者が、その免許名義を、同じく右免許を受けている他の宅地建物取引業者に貸して宅地建物取引業を営ませた場合、それだけで、右名義貸しの所為につき同法一三条を適用しなければならないものとすると、免許名義を借りて宅地建物取引業を営んだ宅地建物取引業者に、何ら不正行為その他法規違反の行為がなかった場合でも、右免許名義を貸した者のみは処罰されることとなって不合理であり、宅地建物の公正な取引の確保を目的とする同法が、その一三条で、右のような名義貸しをも禁止しているとは到底考えられず、同法七九条三号が、同法一三条の規定に違反して他人に宅地建物取引業を営ませた者に対し、不正な手段によって同法三条一項の免許を受けた者(同法七九条一号)及び右免許を受けないで宅地建物取引業を営んだ者(同条二号)に対するのと同じく、同法上最も重い刑罰をもってのぞんでいるのもそのためと解されるからである。

そうすると、原判決が、その判示第二の事実は宅建業法一三条違反の犯罪を構成するとして、被告人会社及び被告人福田廣美をいずれも有罪としたのは、法令の解釈適用を誤ったものというほかなく、その誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決中右被告人らに関する部分はいずれも破棄を免れない。論旨は理由がある。

それで、右被告人らに関するその余の控訴趣意につき判断するまでもなく、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決中同被告人らに関する部分をいずれも破棄し、同法四〇〇条但書に従い、更に次のとおり判決する。

被告人会社及び被告人福田廣美に対する本件公訴事実については、前示のとおり、その訴因自体が宅建業法一三条違反の犯罪を構成しない(しかも、被告人会社代表者兼被告人福田廣美が、原判示第二当時、湘南丘陵興発株式会社において宅建業法による免許を受けているものと考えていたことは、さきに認定したとおりである。)のであるが、その有罪、無罪について争いのあることは、前記のとおりであるうえ、右の犯罪を構成しないことが争う余地のないほど明瞭であるということはできないから、刑訴法三三六条により、右被告人らに対する被告事件が罪とならないものとして、同被告人らに対しいずれも無罪の言渡しをすることとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 桑原宗朝 裁判官 池田憲義 寺坂博)

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